第2種超伝導体の渦糸(ボルテックス)状態は、ゆらぎや相転移現象、あるいは高温超伝導のメカニズムを解明する上でも重要な研究対象です。我々は、乱れたアモルファス超伝導体を用い、3次元ではボルテックスグラス固体相から液体相への2次の融解転移が起こることを従来型超伝導体として初めて示し、全温度-磁場域にわたる磁束相図を完成させました。さらに、絶対零度極限でも磁束系が量子力学的に融解した量子液体(QVL)相が存在すること(Fig. 1)、そして乱れの増加が量子ゆらぎを強めることを通してQVL相を広げることを実証しました。ゆらぎが強い2次元系ではQVL相はさらに広がり、絶対零度ではクーパー対が局在した、従来にない新しいタイプの絶縁体相となっていることがわかりました(Fig. 2)。これらのQVL相は、超流動4Heとのアナロジー、酸化物高温超伝導体の低温高磁場における異常な輸送現象、あるいは量子力学の根本原理に関わるようなマクロな数の磁束の量子トンネル現象との関連などから注目されています。
S. Okuma, K. Kainuma, and M. Kohara, Phys. Rev. B 74 (2006)
144509.
S. Okuma, M. Kobayashi, and M. Kamada, Phys. Rev. Lett. 94
(2005) 047003.
S. Okuma, S. Togo, and M. Morita, Phys. Rev. Lett. 91 (2003)
067001.
S. Okuma, Y. Imamoto, and M. Morita, Phys. Rev. Lett. 86
(2001) 3136.
A. Ochi, Y. Kawamura, T. Inoue, T. Kaji, M. Dobroka, S. Kaneko, N. Kokubo, and S. Okuma, J. Phys. Soc. Jpn. 85 (2016) 044701.
この渦糸固体系を用いて固体のプラスチックフロー現象の研究も進めています。この研究は、大陸プレートの移動や固体の経年変形、もっと一般に摩擦運動する固体の運動といった物理学の基本的問題の解明にもつながります。とくに、渦糸系に歪を与えて回転運動させられる特殊な円盤状の試料を作製し、これにより、固体の弾性、歪力(せん断力)、摩擦力をパラメタとした系統的研究が初めて可能となりました。
S. Okuma and M. Kamada, Phys. Rev. B 70 (2004) 014509.
M. Kamada and S. Okuma, J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 526.
S. Okuma, J. Inoue, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 76 (2007)
172503.
S. Okuma, S. Morishhima, and M. Kamada, Phys. Rev. B 76
(2007) 224521.
S. Okuma, Y. Yamazaki, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 80, 230501(R) (2009).
Y. Kawamura, Y. Matsumura, Y. Yamazaki, S. Kaneko, N. Kokubo, and S. Okuma, Supercond. Sci. Technol. 28 (2015) 045002.
超伝導渦糸系は, 渦糸を粒子とみなすことにより、相互作用する多粒子系の非平衡現象や速度増大に伴って起こる動的相転移を研究する上でのよい実験系となります。我々は最近, 無秩序な粒子の衝突から秩序が形成されるランダム組織化や, 将来の秩序と無秩序(カオス)の境界を決定する可逆不可逆転移と呼ばれる動的相転移の存在を, 超伝導渦糸系において見出しました。また、自然界で広く見られるdepinning現象が臨界現象を伴う非平衡相転移であることを初めて実証し、さらにそれが可逆不可逆転移やabsorbing転移と類似のユニバーサリティクラスに属することを実験的に示しました。
S. Okuma, Y. Tsugawa, and A. Motohashi, Phys. Rev. B 83, 012503 (2011).
Y. Kawamura and S. Okuma, J. Phys. Soc. Jpn., 81, 114718 (2012).
S. Okuma and A. Motohashi, New J. Phys. 14,123021 (2012). (OPEN ACCESS)
M. Dobroka, Y. Kawamura, K. Ienaga, S. Kaneko, and S. Okuma, New J. Phys. 19, 053023 (2017). (OPEN ACCESS)
Y. Kawamura, S. Moriya, K. Ienaga, S. Kaneko, and S. Okuma, New J. Phys. 19, 093001 (2017). (OPEN ACCESS)
駆動された渦糸系は, 低速のうちは試料のピン止めの影響を受けた乱れたフロー(プラスチックフロー)となりますが, 駆動速度を十分に上げるとピン止めの影響をほとんど見なくなり, ついには渦糸系の秩序(格子性)が回復します。我々はこの動的秩序化現象と, さらに高速域において, 渦糸格子の結晶方位が回転する新しい現象を見出しました。この現象は駆動されたアブリコソフ格子の方位の問題として, 40年にわたって理論的に議論されてきましたが, 本研究により初めてその様子が明らかになりました。さらにこの現象には, 渦糸芯の準粒子寿命という微視的機構が本質的な役割を果たしていることをつきとめました。この成果は基礎的にも, またナノスケール超伝導体のデバイス応用の面からも重要です。
S. Okuma, J. Inoue, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 77, 212505 (2008).
S. Okuma, H. Imaizumi, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 80 (2009) 132503.
大熊 哲, 井上 甚, 小久保 伸人, 固体物理 44, 1 (2009).
S. Okuma, H. Imaizumi, D. Shimamoto, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 83, 064520 (2011).
S. Okuma, D. Shimamoto, and N. Kokubo, Phys. Rev. B 85, 064508 (2012).
大熊 哲, 固体物理 51, 547 (2016).
以上のように我々の研究室では、多様な物質の中にどんな共通した性質があるか、あるいはどんな物理が潜んでいるかに注目して研究を進めています。極低温では物質の個性が現われにくくなるため、このような研究が可能になるのです。試料の準備の仕方や複雑さに起因する不確定さを除くため、測定対象はよく制御された構造や次元性(ナノサイズ)をもつ系を用いています。作成された試料は〜10 mKまでの極低温、17テスラまでの強い磁場中に置かれ、ノイズスペクトラム、複素交流インピーダンス、高速緩和測定、モードロック共鳴といった特徴ある高周波電磁応答測定を主とする種々の測定によって精密に調べられます。ひとつの試料を1年かけて測定することも珍しくありません。我々は研究のウエートを精密な測定、あるいは極低温における新しい測定手法の開発に置いています。
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